電池のはなし

0.今回のトピックについて
このトピックは電池のメーカーとは無関係に、種類に焦点を絞って、より有効に、より経済的に電池を使うための知識となるネタを提供するものです。一応、中学生の技術、または中学、高校生の理科程度の難度にしたつもりです。
もう12年前の記事ですが、まだ役に立つかもしれませんので追記しておきます。
細字更新:2000年1月18日
青字追加:2012年1月5日


1.はじめに
電池には物理電池と化学電池とがあります。物理電池とは物理エネルギーを電気エネルギーに変えるもので、太陽電池などが当てはまります。
太陽電池に関しては半導体が、風力や水力ではダイナモが用いられます。太陽電池の変換効率はかつては60%と言われましたが最大で30%程度と言われます。2010年現在、新品で15%と言われます(何に対してかははっきりした資料がないため割愛)からまだ2倍の性能向上の余地があるということです。当然夜は使えませんし、経年劣化します。風力の現状も似たようなものです。
化学電池は化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出すもので、充電のできない「1次電池」、充電のできる「2次電池」、また、意外にも燃料を燃やして電気を取り出す発電器も「燃料電池」として化学電池に含まれます。が、この表現はどうかと思います。通常の「発発(発動機付き発電機)」は、化学(燃やす)→力学(まわす)→電気と変換しますから(動く部分{で電磁誘導で発電すること}が重要なので)一般に電池とは考えません。燃料電池は化学→電気なので電池と考えてさしつかえないように思います。

ここでは、化学電池のなかの「1次電池」と「2次電池」について、さらにポピュラーなものを抜き出して特性とおすすめの用途を解説したいと思います。また、当稿執筆にあたってトランジスタ技術1999年12月号特集を多大に参考にしました。当時私は有望なノートパソコンの電源は薄膜燃料電池だと考えていました。実際は水素タンクの問題が解決されないままになっています。この文章を読んで興味を持たれた方は、トラ技をおいてある図書館も多いと思いますので一読されることをおすすめします。探しても見つからないと思いますけど。


2.1次電池
店で売られている1次電池には、マンガン乾電池、アルカリ乾電池(アルカリボタン電池)、酸化銀電池(腕時計等用)、空気電池(補聴器等用)、リチウム電池があります。なかでも普段よく利用するのは、マンガン乾電池、アルカリ乾電池(アルカリボタン電池)、リチウム電池だと思いますので、それについて解説してみましょう。

○マンガン乾電池
マンガン乾電池には黒いものと赤いもの、青いもの(メーカによって異なる)があり、この順に性能が悪くなりますが、メーカーで全然性能が違います。高価な方が構造的な工夫によって容量アップなどしていますが、基本的な特性は同じです。起電力は1.5Vで、様々な大きさ(JIS等で定められている)のものが販売されています。
マンガン乾電池は、重量が軽いのが特徴です。しかし、取り出す電流の大きさで容量(エネルギ{Wh}=電流×時間)が大きく変わります。大きな電流を流すほど早く電圧が下がってしまい、使用ができなくなります。ですから、モーターを回す機器(ラジカセ、ラジコンなど)には向きません。逆に置き時計など小さい電流しか流れないものに向きます。また、連続して放電するより休みがある方が長持ちします。そういうことから、リモコン、明るくない懐中電灯などにも向いているといえます。
ただし、完全放電すると液漏れが始まるので長く使わない機器からは電池を取り出しましょう。

○アルカリ乾電池
アルカリ乾電池は1990年代に一気に普及しました。基本的にマンガン乾電池と特性は同じといえますが、容量が2倍かそれ以上と大きく、マンガン電池と比べて大電流で使用した場合に容量が低下しにくいように作られています(電子機器の大電流化による)。ただし、2005年あたりから(エネループの普及で)経年による放電(何年置いておけるか)が改善された代わり性能は低下しています(求められる特性が変わったということです)。電池の形状もマンガン乾電池に比べてしっかりした作りになっていて、重量もあります。起電力は1.5Vです。以前は2年ほどの使用期限でしたが、現在は5年程度。安定な構造にした代わり容量が少ない。逆に安いもの(で期限が短いもの)のほうがたくさん電流が取り出せる傾向です(すぐ使うときは安いものを買いましょう)。
アルカリ電池は高容量、大電流での放電特性の良さから、マンガン電池よりはラジカセ、懐中電灯等、大きな電流を取り出すものに向きます。リモコンも同様に特性としては向きますが、マンガン電池を使用した場合より重くなります。置き時計にはアルカリ乾電池の特性を生かし切れないという意味で、向かないといえます。
ただし、ニッケル水素電池が高性能になった現在は主に入れっぱなしにする用途に電池自体が変化しています。つまり、以前アルカリを使っていたものは充電池に、アルカリはなんでも使えばよい、ということです。

○リチウム電池
リチウム電池は、BRやCRというアルファベットが含まれるボタン電池、円筒形電池といった3Vのもののほか、最近は1.5Vの単3型のものも販売されています。
リチウム電池は、小さくても大容量で、大電流でも容量があまり変わらず(ただし大型のものが少ないのですが)、10年以上保存してもほとんど容量が減らないなど大変優れた電池です。様々な小型機器に組み込まれて使用されていますが、使用する機器によってタイプが決められていて、残念ながら我々に選択する余地がありません。そこで、ここでは1.5V単3型に絞って紹介しましょう。
先述の通り、リチウム電池は、大容量で、大電流でも容量があまり変わらず、10年以上保存してもほとんど容量が減らないなど大変優れた特徴を持ちます。また、耐寒性が高く、低温でも特性が変化しません。そういった点から、高山登山時に使用する高出力トランシーバ、というのがもっともよい用途でしょうか。また、値は張りますが(その上2010年現在売っているところを見ません)置き時計に入れておくと5年以上動作します。
デジカメや小型コンピュータにも適すると思われますが、実勢価格が同数のニッケル水素蓄電池と同程度ということを考えると、充電池を導入する方が賢明かもしれません。
そのほか特筆事項として、放電終了時に一気に電圧が下がることがあげられます。普通の乾電池を使用する機器で、電池の残量を表示する機器では当該機能が正常に動作しない場合があると思われます。


3.2次電池
一般的に店で入手ができる2次電池には、ニッケル・カドミウム(ニカド、カドニカ)蓄電池、ニッケル水素蓄電池、鉛蓄電池(小型シール鉛蓄電池)、リチウム・イオン蓄電池といったものがあります。
他にも多少種類がありますが、ここではこれらの2次電池について解説します。

●ニッケル・カドミウム蓄電池
アルカリ蓄電池といえばニッケル・カドミウム蓄電池のことを指すことがあります(本当はニッケル・水素蓄電池も含む)。一般的な、とりわけ単3型の乾電池に互換性のある蓄電池では最も歴史があり、ポピュラーな蓄電池といってもいいでしょう。最近は丈夫に作られていて、上手に使えば2000回以上(まあ100〜500回程度です)繰り返し使用できるそうです。公称電圧は1.2Vで、低温、高温にも比較的強く、乾電池が使えるほとんどの機器で使用可能です。

#共通事項
今回紹介する2次電池すべてに言えることですが、放電が大電流であっても容量がほとんど変化しないという特長を持ちます。ニッカドとニッケル水素は容量ギリギリまで1V程度の電圧を保ち、ある点で電圧が一気に下がります。だんだんと電圧が低下する一次電池にはない特徴です。そういうわけで、2次電池にはパッケージに容量が記されています。たとえば、700mAhの単3型ニッケル・カドミウム蓄電池なら満充電状態で、700mAの電流を1時間にわたって流すことができるわけです。

#ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池共通事項
公称電圧1.2V、500回以上の充電、放電が可能な大変タフな蓄電池(安いものは安い造り)です。
よく知られている欠点に、メモリ効果があります。メモリ効果とは、浅い放電しかせずに充電をするということを繰り返すうち、放電半ばから電圧が低下してしまう現象です。継ぎ足して充電しないことを心がけるのはもちろんですが、ビデオカメラやトランシーバなど比較的高い電圧で使用不可になる機器で起こりやすいので注意が必要です。しかし、容量自体が失われたわけではなく、深い放電(0.8〜1.0Vとなる放電)を2〜3回繰り返すことで容量は回復します。ニカド電池やニッケル水素電池を標準の電源として使う機器にはたいていリフレッシュ機能が付いていますので、電池が保たなくなったと感じたら連続して何回かリフレッシュするとよいと思います。 エネループに代表されるニッケル水素電池はメモリ効果を気にしなくて良いことになっています(継ぎ足しできる)。
もう一つ注意すべき点に、あまりにも深い放電を行うと転極(起電力が−0.3〜0Vになってしまう)が起こってしまうことがあります。一度転極した場合は元に戻らない場合がほとんどですので懐中電灯など電圧のチェックの機能がない機器に使用する場合は特に注意してください。また、7.2Vなど複数のセル(電池の単位)をもつユニットで起電力が6Vや4Vとなってしまった場合も転極が原因です。こうなった場合は残念ながらあきらめましょう。

− 充電器について −
乾電池と大きさが互換性のある(単1〜単4型)蓄電池では、いろいろな充電器の種類があり、注意すべき点が異なります。以下に代表的なものを示しましょう。
また、特に急速充電器ではニッケル水素のものは専用設計ですから、対応した電池以外は使わないでください(かなり危険です)。

◎定電流方式
昔からある15時間、7時間(ニッケル水素では20時間とか)といった長時間を要する充電器です。過充電の対策がないため、決められた時間の、長くとも3割(15時間なら20時間程度)を超えないように充電をやめるようにしてください。
また、新しく容量の大きい蓄電池を買ってきた場合もこのタイプの充電器は問題なく使えます。15時間充電器に500mAhのニカド電池が付属していた場合に、700mAhのニカド蓄電池を買ってきた場合は、15×(700÷500)=21時間充電すればOKです。ただし、1500mAhのニッケル水素蓄電池を買ってくると、15×(1500÷500)=45時間となり、実用的ではないですね。ただ、このタイプは過充電のダメージで電池を痛めることがあまりなく、ニッカド用をニッケル水素に転用しても問題が起きにくい利点があります。つまり、比較的安全(フールプルーフともいう)ということです。

◎タイマ付き定電流急速充電型
定電流方式と同じですが、大きな電流を流し充電の短時間化を図ったもので、過充電防止のため、一定時間経過後に充電をやめるタイマがついています。
最近売られているニカドやニッケル水素蓄電池はほとんど急速充電対応ですから、付属、または対応した容量の蓄電池なら問題なく使えます。ただし、対応した容量より小さい電池を用いると加熱し品質の劣化、大きいものでは満充電とならず電池の性能が生かせない場合があります。

◎−ΔV検出急速充電方式(マイナス・デルタ・ブイ検出急速充電方式)
最近一般化してきた方式です。充電池には満充電になるやや前から電圧が少し下がることが分かっていて、電圧が少し下がったことを関知して充電をやめる方法が考案されました。ニッカドとニッケル水素では特性が違うので絶対に流用しないようにしましょう。結構高価ですが、どの容量の蓄電池を使用してもフルにその性能を生かせます。製品を購入するときタイマ型と区別が付きにくいですが、箱の説明に1000mAh→約60分/一本、1500mAh→約90分/一本というように容量別に充電時間が書いてあります。というかタイマ型のものはもうまずありません。

●ニッケル・水素蓄電池
基本的特性はニッケル・カドミウム蓄電池と同じで、同じ大きさで容量が2倍程度になっています。
ただし、ニッケル水素蓄電池はニッケル・カドミウム蓄電池と比べて自己放電が多く、さらに高温の場合にはひどくなります。エネループなどでは相当改善されています。夏の自動車内などに放置すると自己放電でいざというときに使用できなくなったり、メモリ効果と同様のことが起こったりします。したがって、デジカメのような大きな電流を要し、一気に使い切るタイプの機器に向きます。特に容量の点ではアルカリ単3では1000〜1400mAh相当で、2000mAh程もあるニッケル水素の相手になりません。逆に電流量の小さい、または動作していない場合が多い機器には不向きです。
容量低下が起こりやすいので機器にリフレッシュ機能がない場合はなるべく放電装置を準備する必要がありましたが、エネループなどでは気にすることも少なくなり、ニッケル水素蓄電池を使用することを想定して設計された機器のみといわずいろいろな機器にに使うために高性能な充電器を奮発して購入し、充電池をたくさん揃えておく、というのも賢い使い方です。
ところで、高温下で放置したり長期間の保存をしてしまい、容量が減少した場合でもメモリ効果の場合と同じく充放電を何回か繰り返すと回復しますから特に問題はありません。もう一つ、ニカド電池より充電時に発する熱の量が多く、一部の充電器が対応しないこともあります。
また近年(2010年頃)ある問題として、高容量の電池は電気を蓄える内容物を増やすためにセパレータや電解液の量や耐久性を減らし、充電回数が少なくなってしまっている問題もあります。ひどい場合は数回(5回程度)の充電でも本来の性能が失われる場合もあります。同じブランドの低容量品はその点丈夫になっていますので、用途に合わせて選びましょう。
以上いろいろなことを総合すると、たとえば単3型乾電池と互換の1300mAh程度のニッケル水素蓄電池を使うより、800mAhや1000mAh程度の高容量ニッケル・カドミウム蓄電池の方が使い勝手がいい場合が多いようです。
というのは昔の話で、この稿でよくでてきた「エネループなど」にあたる低自己放電品を購入し、容量を目的に合わせ選択してください。まあ、ブランドはは三洋か松下です。それ以外もそれなりに使えます(1300mAhのニッケル水素電池が100円/本で買える時代になるとは思いもしなかった)。

●鉛蓄電池
車用のバッテリなどです。1セル(電池の単位)あたり2V。
●小型シール鉛蓄電池
一部のヘッドホンステレオやワイヤレスマイクなど小型機器に使われています。同じ大きさの1セルではニカド蓄電池と比べて電圧が高く(2V)、容量が小さく、比較的高価です。メモリ効果はありません。
乾電池と電圧的互換性がなく高価にならざるをえないので、ニッケル・水素蓄電池やリチウム・イオン蓄電池に取って代わられたので、見がないと思われます。

●リチウム・イオン蓄電池
最近、モバイルコンピュータや携帯電話といった機器に多く使用されています。ニッケル水素より同容量なら軽量で、メモリ効果もないため継ぎ足しの充電が可能で、保守が楽です。公称電圧は3.6Vか3.7Vなので乾電池とは互換性がなく、必然的に機器専用の充電器で充電することになります。また、問題点を解決する工夫はほとんど機器に内蔵されていて使用者が気にする必要はありません。
強いてあげるなら過放電に弱いことに気をつけるべきです。たとえば携帯電話などでバッテリ・ロー・レベルで電源が切れた場合でも多少置けば電圧が回復し、何分か使用が可能な場合がありますが、電池の性能が著しく劣化、場合によっては完全に容量が失われるため、やめた方が絶対に電池を長期間使用することができます。
また、充電するたびに0.5%程度ずつ容量が減少すると言われ、3日おきくらいに充電する場合は約1年で容量の約半分が失われてしまうことになります。そういうわけで、コンピュータでは使用したい年数と同量のバッテリパックを購入しておくのが賢明です。
……10年以上も前にこのように書いて、今考えると全然改善されていません。むしろ機器の使用電流が増大し、リチウムイオンの性質以上の電流量を取り出す用途も増えたはずなのにそのままのため、電池パックの加熱や爆発の危険が高まっています。

ただし、リチウムイオンに関して(ニッケル水素も同様)は、ここ10年でインバータ(昇圧素子)の性能が向上したために単一セル(ニッケル水素なら1.2Vリチウムイオンなら3.7V)で利用する機会が増え、電池パックのうち一部のセルがダメになたために全体が使用できなくなることは減ったかな(ただしセル自体への負担は増えたかな)と思います。うまく使えば使用者の負担は少なくてすみます。

しかし、デジタルというものは機器の製作精度が低下しても同様に動作するという方式なので、(不要とされた部品はどんどん省略されて)結局は以前のノウハウを食いつぶしていき低価格とするだけ、だから10年前の問題も解決されていない、そんな気がしました。


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